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未来絵Vol.1:「伝統」とは改革の連鎖である 備前焼作家/人間国宝 伊勢﨑 淳

伊勢﨑 淳 (いせざき じゅん) プロフィール

1936年岡山県備前市に伊勢﨑陽山の次男として生まれる。1959年岡山大学教育学部特設美術科卒業。1961年第8回日本伝統工芸展初入選。1966年日本工芸会正会員。1978~98年岡山大学教育学部特設美術科講師。1981年金重陶陽賞、1987年田部美術館茶の湯の造形展・優秀賞、1993年岡山県文化奨励賞。1998年日本工芸会理事就任、岡山県重要無形文化財認定。2001年日本橋三越本店にて伊勢﨑淳作陶45周年展開催。2004年重要無形文化財保持者に認定。
※右の写真は伊勢﨑さん近年の作品


2004年、重要無形文化財保持者に認定された伊勢﨑 淳さん。備前焼作家として5人目の人間国宝は、現代感覚を取り入れ、
独自性と創造性に富んだ作風で、高い評価を得ています。
900年の歴史を誇る備前焼の担い手として、伝統工芸とどう対峙し、「今」とどう切り結んできたのか、お話をうかがいました。 (本文敬称略)

来年3月、日本橋三越本店で、これまでにない大規模な作品展を開かれるそうですね。

伊勢﨑さん:
備前焼作家の個展として、規模も、オブジェ中心の内容も、おそらく日本で初めての試みでしょう。今回の作品展は、自分の集大成。伊勢﨑淳として、時代に残るものをと強く意識して作品づくりに臨みました。作家というのは自己表現の世界。創造性を求め続けることが存在意義なんです。新しい世界を切り拓き、方向性を示した創造的な作品を生涯に10点、残せればいい。しばらくこのシリーズを続けていきたい。

作品展のテーマは?

伊勢﨑さん:
「大地の声を聴く」。人間はほんの数千年前まで森や林のほとりで生活し、自然に畏敬の念を抱きながら、その恵みを享受し、自然と共存していました。それが、近年、合理主義とか科学主義とか、人間の能力を過信しすぎた結果、環境を汚染し、自分たちの命を脅かすような状況をつくってしまった。だからこそ、「大地」の声に謙虚に耳を傾け、人間としていかに生きるべきかを問いたいと、数年前から発表の場を準備してきました。創造性と同様、社会性がなければ、アートとは呼べません。

「創造性」は、備前焼を志したときからずっと大切にしてきたものですか。

伊勢﨑さん:
僕の場合、父親が備前焼を生業にしていて、その方向に自分が進むのは、ごく自然な成り行きだったのだけれど、進路を考えた高校生の頃、備前焼はどん底で...。「独立して生活していくのは大変だから、備前焼をやりたいのなら、勤めをしながらやったらどうか」と父に言われ、親孝行として、大学で美術を専攻し、卒業して高校教員になりました。数年後、父が亡くなったのを機に、教員を辞めて、この道一本に。「創造性」という信念だけは持ち続けながらも、家族を養わなきゃならないし、売れるものを作るという産業の部分と、自己表現としての作家活動を、車の両輪のように並行してやってきた。純粋に作家活動に集中できるようになったのは、この2年ぐらいですよ。

「伝統工芸」の重みの中で、創造性を前面に表現していく難しさはありませんか。

伊勢﨑さん:
まず前提として、自分の作家活動は非常に伝統的だと僕は思っているわけ。備前の独特の土と技術という伝統の上に立って、新しい技術や新しい素材を開発しながら、今を生きるものを生み出している。先祖から受け継いだものを生かしながら、新しい感性を吹き込んで、新しい時代の空気を吸って、新しいものを生み出していく。そういう姿勢が本当の意味の「伝統」だと。だから、「伝統」というのは常に改革の連鎖であって、時代の変化と共に変わっていくもの。同じものを繰り返すだけなら「伝承」であって、いずれ消えてしまう。今を生きるものを生み出すことが、伝統を引き継ぐものの責任であり、未来へつなぐものの役目なんです。

経済不況はますます進み、備前焼にとっても厳しい時代といわれています。

伊勢﨑さん:
900年の備前焼の歴史の中で、桃山時代以前の、実用性の高い焼き物と高く評価され、日本の産業の中で工業製品の中のトップを占めていた時期と、桃山時代に入って「侘びさび」の世界で備前の土と独特の造形が一段と高い評価を受け、お茶道具の中核を成した時期は、だれもが認める黄金期。江戸時代に入ると、人々の暮らしが安定し豊かになって、有田焼など華やかできれいなものがもてはやされるようになり、無骨な備前焼は敬遠され、細工を施した置物に活路を見いだしていった。明治大正昭和の初めは、池田藩の保護が打ち切られ、機械化や量産化に乗り遅れた備前焼は、個人レベルの産業活動にならざるを得なかったけれど、それが幸いして結果的には、バブルがはじけても、不況が深刻化しても、趣味の世界を中心にどうにかこうにか生き残ってきている。その中で備前焼の陶工たちが非常に素晴らしいのは、どの時代にあっても迎合することなく、備前の土の特性と向き合い、その素材の良さを最大限に生かした形を生み出し、素材と技術に根ざしてものづくりをする姿勢が一貫していたこと。よその真似を絶対にしなかった。それは特筆すべき素晴らしい伝統であり、僕らが今、この厳しい時代を生き抜いていく道でもある。

ものづくりに対する姿勢が問われている、と?

伊勢﨑さん:
こういう厳しい時代だからこそ、表現者として頑張って取り組むべき。ものを作る喜びと、造形言語で社会に訴えようという考えを持っている人が少ないのではないかと感じます。 「量」ではなく「選択」の時代なのだから、魅力的なものを作れば、人は必ず見てくれるわけで、努力せずに売ろうとしてはだめ。必死に勉強して、自分の意識改革をして、努力して、クリエイティブにやっていかなければ。それこそが未来を拓く力なのだと思います。


自宅から歩いて数分のところにある半地上式の穴窯は、50年前、古来形式にのっとって、兄の満さんとついだ。長さ15メートル。内部は仕切りがなく、作品を置く位置によっても窯変が多彩に。伊勢﨑さんにとって創作の原点といえる場所。

オブジェはすべて、ろくろを使わず、みずからの手で、感性を形に表現したもの。「精神が自由でないと、創造的なものづくりはできないよ」

スケッチしない。完成図も描かない。大地のエネルギーを感じ取って自分の中に蓄積していき、その記憶をたどりながら、造形に向かう。「何を感じるかは、見る人の自由」。

備前の土は粘りが強く、採取する場所によって微妙に性質が違うため、何種類かをブレンドして、理想の土に近づけていく。

窯出しした作品を自然を背景に、愛用のスマートフォンで撮影。

伊勢﨑さんは、1976年に備前ロータリークラブに入会し、ロータリアン歴35年。91年度には第20代会長を務めた。

釉薬を使わず、多彩な色と表情を作り出す備前焼は「土と炎の芸術」といわれる。土の特性や窯の中での炎の流れ、灰の動きなどを掌握し、
一つとして同じもののない、味わい深い造形を生み出していく。伊勢﨑さんの作品は、どれも大胆で、新しく、創造性に富んでいる。

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